子犬テンプルちゃんの超初期の問題(2) 社会化とワクチンの関係

対人関係、対犬関係、対車関係、対自転車関係などが苦手のテンプルちゃん

子犬時代の超初期において、テンプルちゃんは対人関係が苦手でした。可愛らしい笑顔で飼い主を見るとか、尻尾を振って首をかしげるとか、そういうほのぼのした出来事がありませんでした。気に入った人には、ミサイルジャンプで一直線に顔面めがけて飛びかかります...。気に入らない人には噛み付き、身をよじって本気で逃げようとします。程度というものを知らず、いつでも全力です。

それはそれで可愛いと思える人と、少しは人間の気持ちを汲め!と怒る人に分かれます。私の家族のほとんどが後者に属してしまい、テンプルちゃんの世話から足を洗ってしまいました。

これは多分、テンプルちゃんの「社会化」トレーニングが不足していたせいだと、今では考えています。そして、その問題はワクチンのタイミングと関係していると感じています。

子犬のワクチン

子犬は屋外の散歩に出かける前に「混合ワクチン」というものを3回接種します。様々な感染症に対抗するために母犬から母乳などを通じて受け継いだ自然な免疫は、生後2ヶ月ほどで消失すると色々な動物病院のHPなどに記述があります。

コロナワクチンと同じように、生まれて初めてのワクチンの場合、免疫が有効化されるまで複数回の接種が必要です。しかも、ワクチンは連続して打てませんから(二週間からひと月程度の間隔が必要)、ワクチンプログラムが完了するまでに、どうしても3,4ヶ月かかってしまいます。この間、散歩にいけないのが、子犬の社会化に大きな影響を与えます(動物病院のHPなどにも、そのような記述が目立ちます)。

一方、子犬として最後のワクチン接種となる狂犬病予防接種は、混合ワクチンが有効になってからです。混合ワクチンによる免疫が誘導された後なので、散歩に行けるようになってからのため、狂犬病予防接種は社会化とはあまり関係ありません。

必ずしも「散歩」に限らない社会化トレ

テンプルちゃんと私たちは、かかりつけの獣医さんのアドバイスに従い、ワクチンで免疫が誘導されるまでの間、テンプルちゃんを屋外に全く出しませんでした。これは大きな失敗だったと後悔しています。

3回目の混合ワクチン接種は生後4ヶ月程度のところで接種しますが、2回目の接種からおおよそ1ヶ月ほど間を開けないといけません。たとえば、獣医での予約の都合で予定が後ろにずれたり、ブリーダーが責任を持つ1回目接種のタイミングが悪かったりした場合、生後5ヶ月に近いところでの接種になる可能性があります。こうなると散歩に出るタイミングが大幅に遅れ、心の成長が固まる前に、家族以外の人間や犬たちに出会う機会が激減してしまいます。

さらに、3回目のワクチン接種後にすぐに散歩に出れるわけではなく、免疫が有効になるまで三週間程度、屋内で待機していなくてはなりません。つまり最悪の場合、生後半年ほど屋内に閉じ込められたままになってしまって、精神の発達、特に対人関係や対犬関係にに大きな問題が発生してしまう可能性があります(テンプルちゃんは、もしかするとこのケースかも)。

私たちの獣医さんは、「最近、この近所では子犬がパルボウイルス(糞便感染)やレプトスピラ(水たまりや池、川などの「汚染水」経由)に感染して死んでしまう事例が結構発生していて、心配している。社会化は大事だが、死んでしまってはもともこもない。リスクを承知で外に出すなら止めはしないが、免疫が有効になるまで屋内にとどまっていた方が安全」と主張していました。もちろん、専門家の意見でしたから最優先しました。

しかし、今振り返ると、獣医さんの半分(以上?)は、犬の生き死にや病気の有無だけに興味があって、精神的な発達やしつけにはあまり興味がない方が結構いるのではないか、と感じています。しかし、精神と肉体は表裏一体です。「肉体的な病気がなければ、精神的な病気は取るに足らない」と考えるのは間違いだと思います。

実際、社会化が重要と主張する獣医さんの多くが、「ワクチン有効化までの待ち時間では(犬が自分の足で歩く)散歩はできないが、飼い主が抱っこしたりキャリーに乗せたりして、外にであることは禁じていないので、積極的に外界へ出て様々なコミュニケーションをとるように」と言っています。

他の犬と物理的な接触があると(例えば、相手のお尻を舐めるとか、引っかかれるとか)、感染のリスクは確かにあります。しかし、抱っこしたまま遠目に挨拶したり、他の犬が鳴くのを見せたり聞かせたり、といったことをしても感染のリスクはありません。そもそも、知らない人に挨拶する程度ならば、ヒトイヌ感染はほとんどありませんから安全です。

性格も頭も良かった初代犬DDちゃんを育てたブリーダーに話を聞いた時、この方は、引渡し前の子犬たちを近所の小学校の校門までキャリーで連れて行き、小学生たちの遊び声を30分とか60分とかに渡って延々と聞かせるそうです。なるほど、そういう形の社会化もあるのか、と感心しました。

この話を聞いて色々とアイデアが湧いてきました。例えば、道路の近くまで連れて行って車の騒音を聞かせたり、ラッシュアワーで慌てる自転車や歩行者の様子を遠目に見せたり、駅前に連れて行って人々の往来を見せたり、ショッピングセンターの入り口に立ってお客さんの出入りを見せたり、などなど。色々な「ワクチン中の社会化」トレーニングのやり方を思いつきました。

テンプルちゃんに適用するには「時すでに遅し」でしたが、2歳までならなんとかなるという話を信じ、遅まきながら現在このやり方で社会化トレを行なっています。

しかし、できればブリーダーからおうちにやってきた時から、このような社会化トレを少しずつ積み重ねていくべきだったと反省しています。精神が固まる前にやると、驚くべき柔軟さをもって、高度な環境適応を実現してくれるのが子犬(人間の赤ちゃんもきっとそう)だと思います。

日本に数少ない「犬の精神科」を専門とする獣医さんの一人、ぎふ動物行動クリニックの院長さんは「できれば生後4から13週のところで社会化を完了してもらいたい」と言っています。これはブリーダーさんのところにいる期間を含みますから、なんともならないところもあるわけですが、13週付近ならなんとかなります。

平成28年動物愛護法が改正され、生後56日を経過しない子犬の販売や展示が禁止されました。これは、犬の世話などしたこともない悪徳商人たちが利益だけを考えて子犬を乱売したからです。56日というのは8週間ですから、社会化を実施すべきかなりの時間をブリーダーのところで子犬は過ごすことになります。したがって、自分で自分の子犬をしつけるためには、自分の家に連れ帰ったときから、すぐに社会化トレを始める必要があるということになります。

テンプルちゃんの「おそまき」社会化トレ

テンプルちゃんは、ワクチンプログラムの問題のみならず、コロナウイルス の関係で社会化が遅れてしまいました。散歩に出歩けるようになってからも、お店に出かけたり、人にあったりする機会が少なく、人間に対する興味のようなものが欠けた状態となってしまいました。

一方で、散歩にはよく出かけ、近所の犬たちとたくさん触れ合うことには成功しました。初期の頃は、大型犬や中型犬と仲良くなりましたが(ピレネー犬!)、途中から「小型犬キラー」となりました。これまで「大きな犬」と上手に触れ合えなかったプードルがテンプルちゃんと上手に遊ぶ様子を見て、感動してしまった飼い主の方々から感謝されたりするほどになりました。逆に、この頃からテンプルちゃんは大型犬が苦手となり、吠えたりするようになりました。その吠え方は人間に対する吠え方とよく似ていたので、大型の犬と人間を同類としてみているのではないかと疑っています。

また、狭い道路をものすごいスピードで走ってくる自転車や自動車に向かって、対抗心メラメラで飛びかかったり、吠えかかったりしていました。足の速いランナーやジョギングの人々の場合は、テンプルちゃんに突っ込んでくるように見えたり、退こうとしない素振りを見せたりすると、ものすごい剣幕で飛びつきました。あたかも「お前がどけ!」と叫んでいるようでした。

ショッピングモールの店舗出入口でも、くる人くる人に吠えかかり、飛びかかり、それはもう危険な状態といっても良いほどです。特に、小さな子供や小学生のような「不規則走り」や「叫び走り」に対して耐性が弱く、リードをものすごい勢いで引っ張って飛び掛かろうとします。

まずは、チョーク首輪というものに首輪を変えてみました。最初は使い方がわからず、強く首が締まって犬が死んでしまうのではないかと心配したほどです。あまり強く締まると苦しそうだし、行動に変化も見られないので、すぐに使うのをやめてしまいました。その間も対人行動は悪化するばかりです。

困り果てた末に、近くに住むトレーナーに相談してみることにしました。警察犬の元訓練士の方でした。住宅街の中なので、それほど広い感じではないのですが、ご自宅の庭を素晴らしいドッグランに改造していました。広過ぎず、狭過ぎずのちょうど良い広さです。

1回のセッション(1-2時間)で5000円程度ですが、色々と役に立つアドバイスをいただきました。まずはチョーク首輪に関しては「ハーフチョーク」というのを勧められました。チェーン構造の首輪で、犬が無理に引っ張ると首が締まる機能は同じですが、締まり過ぎないので怪我の心配が軽減されました。ただ、完全には締まらないので、犬がその弱点につけ込んで引っ張り続けることがあります(特に素人が使うとそうなる)。その場合は、人間がクイッとリードを引いて、瞬間だけ強く締まるようにするとよい、とトレーナーから教えてもらいました(お手本を見せてもらうとよくわかりますが、結構強く引きます。このとき、チェーンがギリッという音を出して締まるのがわかります)。

ちなみに購入したのは、トレーナーが使っているThe Blacklab companyのものにしました。

www.theblacklab.co.jp

このハーフチョークのおかげで、飛びつきや吠えかかりを抑制できるようになりました。後で知ったのですが、犬とのコミュニケーションに関しては、言葉による命令が確立する前は、リードの張りや引きで「会話」するのだそうです。チョンと引っ張ったり、ピーンと抑えたりして、「ダメ」とか「待て」という「言葉」として使うのです。

毎日の散歩で、この「リード会話」を繰り返していくうちに、少しずつテンプルちゃんの飛びかかりは減っていきました。しかし、それなりの時間はかかりました。場数を踏み、犬好きの子供たちに協力してもらい、リード会話を繰り返して、少しずつ理解してもらうのです。

プロのトレーナーは、餌(おやつやトリーツ)とリード会話を上手に組み合わせて、短時間で犬をしつけます。とくにリード会話の「引っ張り」はかなり強くやる場合があります。犬がひっくり返るような感じにやる人もいるほどです。しかし、素人はあれほど強くリードをひっぱれません。ただ、こういう技ができれば良いかというとそういうわけでもなく、トレーナーたちが言うには、「表面上はしつけられたように見えても、心の底から服従しているわけではないので、繰り返して焼き付ける必要がある」ということでした。つまり、どんなやり方でも時間はある程度かかってしまう、ということらしいのです。

歩いて散歩に行く時は、どんな歩行者が来るのか、どんな車両が走ってくるのか予想しながらになり、心臓はドキドキです。実は、犬の散歩に出てくる人たちのお顔をちらっと盗み見ると、私たちと同じように緊張していたり、怖い顔をしている人が多いことに気がつきました。やはり、犬が跳びかからないように緊張しているのだな、と思いました。仲間が増えたようで少し安心したのも確かですが、それだけ同じ悩みで困っている人は多いのだなと感じました。